有彩色照明シーンの色情報を考慮したダイナミックレンジ圧縮
背景と目的
街中のイルミネーションや舞台照明演出において、LED カラー照明を利用した色彩演出が盛んに行われています。 最近では、スマートデバイスを介してディジタル調光が可能なカラー LED 照明1 が民生用にも普及し始めています。ユーザが光源の色を自在に指定できる環境が提供されているイルミネーションや照明デザインで色彩豊かな演出が可能となるに伴い、色彩演出の効果をモニタや紙面上で把握し、その演出効果や演出設計に役立てるシステムが必要になってきます。
しかしながら、一般に市販されているカメラのダイナミックレンジは 80 dB 程度であるため、色彩豊かな照明光や周囲の色調や形状を1枚の画像に納めるのは困難です。(図1.1)
例えば、速いシャッタースピードで撮影した低露光画像(図1.1(a))では光源の色を撮影することが可能ですが、照明周囲は黒く潰れてしまいます。一方、遅いシャッタースピードで撮影した高露光画像(図1.1(c))では照明周囲の色や形状を記録可能であるものの照明領域に白飛びが発生してしまいます。
このような状況下に対して、広いダイナミックレンジを有するHDR(High Dynamic Range)画像を用いると、シーン全体の色調や明るさを精度よく記録できます(図1.2、輝度画像)。
HDR 画像の表示には、モニタの表示可能域までダイナミックレンジを圧縮する必要があり、用途に合わせてこれまで多くの圧縮手法が提案されてきました2。
ダイナミックレンジ圧縮手法には、輝度に関して圧縮を行うトーンマッピングと、カラーアピアランスモデルを用いるものがあります。
カラーアピアランスモデルによるレンジ圧縮手法の一つに、iCAM063 と呼ばれる手法があります。iCAM06 では、色順応や桿体や錐体の非線形応答圧縮といった輝度や色に関する視覚特性を考慮した色見えを再現可能です。しかしながら、カラーアピアランスモデルによるダイナミックレンジ圧縮は、高輝度かつ高彩色の光源が含まれる HDR 画像の場合には、圧縮結果は従来の 8 ビット画像:Low Dynamic Range 画像(LDR 画像)のレンジに収まらず、光源やその周囲に色褪せが生じてしまう問題がありました。
本研究は、有彩色照明を含むシーンで撮影されたHDR 画像の光源色を含めた色情報を、視覚特性に考慮して LDR 画像上で表現することを目的としています。そのために、カラーアピアランスモデルにおける局所順応輝度マップの生成方法を見直し、照明やその周囲などのシーンの局所領域に注視した場合の色や明るさを 1 枚の画像上に表現する方法を提案しました(図1.3、従来手法:Reinhard2012, iCAM06に対し、提案手法:ours)。
そのほかの結果などは [IEICE paper] Dynamic Range Compression for Chromatic Lights
主な発表文献
- 有彩色照明シーンの色情報を考慮したダイナミックレンジ圧縮
- 久保雄登、神納貴生、栗山繁
- 電子情報通信学会論文誌 D Vol.J100-D No.3 pp.394-403
- https://search.ieice.org/bin/summary.php?id=j100-d_3_394
- Color restoration of lighting scenes with locally adapted HDR images
- Yuto Kubo, Takao Jinno and Shigeru Kuriyama
- 2015 2nd International Conference on Advanced Informatics: Concepts, Theory and Applications (ICAICTA)
- 10.1109/ICAICTA.2015.7335364
- http://ieeexplore.ieee.org/document/7335364/
- Restoration of color appearance by combining local adaptations for HDR images
- Yuto Kubo, Takao Jinno and Shigeru Kuriyama
- AIC2015, 2015.05
- カラー照明による色彩演出の色印象再現
- 久保雄登、神納貴生、栗山繁
- 第13回 照明学会ヤングウェーブフォーラム,2015.03(招待講演)
参考文献
-
Erik Reinhard, GregWard, Sumanta Pattanaik, and Paul Debevec. High Dynamic Range Imaging: Acquisition, Display, and Image-Based Lighting (The Morgan Kaufmann Series in Computer Graphics). Morgan Kaufmann Publishers Inc., San Francisco, CA, USA, 2005.↩
-
Jiangtao Kuang, Garrett M. Johnson, and Mark D. Fairchild. iCAM06: A refined image appearance model for HDR image rendering. Journal of Visual Communication and Image Representation, Vol. 18, pp. 406-414, 2007.↩